活動レポート2020年8月期

竹富島地域自然資産財団の環境保全活動をピックアップして紹介します。

2020年8月28日

グックの積み直し

竹富島に残る沖縄らしい風景のひとつ、サンゴ石を積み上げた石垣はグックと呼ばれています。セメントなどで固められているわけではなく、大小、形も様々な自然のサンゴ石をパズルのように組み合わせて積み上げる野面積みで作られています。そのため風雨や近隣の樹木の成長、ちょっとした衝撃で崩れてしまうことがあります。決して寄りかかったり、ましてや上に座ったりしてはいけません。サンゴ石は鋭利な角が多いので大怪我をしてしまうかもしれません。財団では景観維持と技術の伝承、そしてそこに暮らす生き物たちのため、このグックの維持管理も進めています。

今回は、財団事務所入り口にあるグックが崩れてしまっていたところを試験的に修復してみました。ただ積み上げるだけではすぐに崩れてしまうので、昔から伝えられている手法を知り、経験もある人によって作業を実施。まずは崩壊した部分を取り除くことから始めるのですが、慎重に作業をしないとグック全体が連鎖的に崩れてしまうこともあります。綺麗に崩壊部分を取り除いたら、大きな石を外枠に、壁の内向きに力が加わるようにきっちりと組み上げます。ひとつずつ、ガタつきがないか確かめながら積み、内側には細かな石を詰めます。土を詰めてしまうと雨で流され崩壊してしまうので、小さな石を集めてしっかりと詰めていきました。強度があり、見た目にも綺麗に積み上げるには多くの経験とセンスが必要だと言われています。竹富島でベテランと言われていた人は、パッと見ただけで「石がここに積んでほしいと言っている」と1度で位置決めをし、美しく強固なグックを積み上げていたそうです。この伝統技術を後世にもしっかり伝えていきたいです。





2020年8月1日

ナージカーの生き物

河川のない竹富島では、水道が敷かれるまで生活用水として井戸水と雨水を利用してきた歴史があり、多くの「カー(竹富の方言で井戸)」が存在しています。ですが現在では、水利用の役目を終えて「願い=祈り」を捧げる場所としての使用がほとんど。そのためあまり管理もされていない状態の井戸も多く、昔ながらの竹富の景色が消えていく場所のひとつになっています。使用されない井戸の水は循環がよくなく淀んでしまう傾向があり、かつての生物環境とは異なるものとなってしまいます。そこで井戸水を利用してかつての環境を取り戻す一環として、財団の他活動である防風林の植林事業で苗木に与える水として利用することにしました。

今回は、前段階として最初に水を利用する予定の仲筋井戸(ナージカー)の生物調査を実施しました。竹富島のなかで比較的大きく水量も安定しているこの井戸は、かつてはスロープ状の道が作られて歩いて水面まで降りることができたのですが、現在ではコンクリートによる囲いが作られ、生物の出入りが難しい状態。調査時の水深は深いところで1.8m。タモ網で水底や水中の生物を探るとともに、カニかごを1昼夜設置して様子を見たところ、カダヤシとヌノメカワニナ、ヘリトリオカガニ(陸封型)の3種類のみを捕獲することができました。カダヤシはボウフラ退治のため人為的に入れられたものだと推測され、他の種はこのような場所では一般的な生物。安定した水量のナージカーで予想された生物多様性からは、少し単純すぎる生物相でした。ほぼ垂直な壁と井戸べりから水面までの深さ、そして底が水面に出る機会が少ないなどの理由で、鳥や昆虫も利用しづらい環境になっていることが生物種の少なさの要因ではないかと予想されます。利用しなくなったことで変化した水質も考えられ、かつて井戸に生息していた種のうち生き残っているものが今回発見されたものと思われます。本来は海岸で産卵して幼生時代を海中で過ごすオカガニが、陸封型生物の特徴を示しながら生息していることからもそのことがうかがえます。

竹富島のなかで貴重な限られた淡水域となる生物環境を保全してゆくためにも、今後ほかの井戸も調査していきたいと思います。